関節リウマチ(リュウマチ)の温泉療法 岩手県盛岡市繋温泉(つなぎ温泉)ホテル三春
監修
岩手医科大学名誉教授・認定温泉医
放射線科専門医・人間ドック学会認定指定医
裄V 融
編集
厚生労働省認定温泉入浴指導員
桑原 和春
我が国のリウマチ(RA)-Rheumatoid Arthritis-患者は60〜70万人と言われています。
その中で約10%の方が要介護であるとされています。
リウマチは30〜50歳代の女性に多く、男性の3倍です。
これは免疫異常疾患で、現代の医学でも原因不明であり、完治はなかなか難しいものです。
しかし、完治は不可能でも、疼痛の軽減、可動域の拡大、関節破壊を遅らせるなどの治療法は確立されています。
リウマチは炎症面と障害面の二面性を持ち、放置しておくと筋力低下、筋肉萎縮が起こり、軟骨や骨が破壊されて関節が変形します。
さらには身体障害にも及ぶ病気です。
このため
リウマチの治療は、薬物療法とともに、関節の破壊や筋力低下を防止するためにリハビリテーションが重要となります。
薬物で疼痛が治っても、関節障害がひどくなりQOLが低下します。
このリハビリテーションこそが温泉療法、温熱療法に当たるものです。
ヨーロッパ、日本を問わず、昔からリウマチは温泉療養が王座を占めてきました。
これは実際、温泉の作用機序が分からなかった時代でも昔から経験的に温泉に鎮痛効果があることは知られており、しかも誰でも容易に経験できる効果でした。
ところが最近では、薬物療法が主流の時代であり、温泉療法の効果、方法が分からなくなり、また温泉に来ても失敗に終わって帰られる方が多く見られます。
これは温泉療法は簡単ではないことを示唆しています。
当館にはリウマチの方が再々訪れて来ますが、多くの方々はあちこちの温泉地を歩き回り、結果的には何も疼痛が治っていないというのが現状です。
これは温泉旅館に指導する知識を持った方が全くいないということに他なりません。
まず使用する温度や入浴時間などに問題があります。
神経痛は42.5〜43.5℃位の高温浴で、リウマチは免疫異常疾患ですので少しぬる目の39〜41.5℃です。
観光旅館の温度は42〜43℃で温度が高すぎるのです。
これが第一の問題点です。
第二は入浴時間で最低でも15分の入浴時間が必要です。
ところが現代人の入浴時間は1分30秒ですので、これでは治るはずがありません。
現在の医療では、関節リウマチ(RA)を予防することも完治させることも出来ません。
従って、現時点での治療目的は早期診断と、炎症が広がってしまう前に進行を抑制し、患者の身体的、精神的、社会生活の質(QOL)を高めることです。
関節リウマチ(RA)の治療は基礎的治療、薬物療法、手術療法、リハビリテーションの4本柱からなります。
この4本柱をバランスよく行うことが治療の基本となります。
◇基礎的治療とは患者教育のことです。具体的には、
1)関節リウマチについて必要な知識を与え、今後の治療期間に備えさせる
2)不安感を除き、治療への意欲を引き出す
3)運動機能や関節機能を維持するために毎日1度は関節の温熱療法と可動域や筋力維持目的のエクササイズを行うように指導する
◇手術療法
関節破壊による重度の機能障害による場合
◇薬物療法
関節炎が急性増悪期にある場合
◇慢性期に対して
薬物療法
・非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSIDs)
・抗リウマチ薬
・免疫抑制薬
・生物学的製剤
+
リハビリテーション
・理学療法+作業療法である
・理学療法は物理療法+運動療法
・
物理療法は温熱療法、水治療法、温泉療法のこと
・運動療法は関節可動域訓練他
以上、手術療法、薬物療法にしてもリハビリテーションと共に対症療法に過ぎませんが、
薬物療法とリハビリテーションを組み合わせて行うことが現時点での最も効果の高い科学的根拠に基づく治療法となります。
関節リウマチの治療は主治医、リウマチ専門医、整形外科医など広範囲に及ぶため、どのような状況の場合、どの医師に相談すべきかを下記に表示しておきます。
リウマチの温泉療法は慢性期であれば積極的に利用すべきものですが、急性期、再燃している場合、特に熱のある場合は禁忌となります。
以下に適応と禁忌を示しておきます。
適応
1) 体温が正常である(罹患関節に熱感があっても良い)
2) 全身状態が悪くない
3) 活動性の内臓病変がない
4) 活動性の系統的血管病変がない
5) 血沈は必ずしも参考にならない
禁忌
1) 発熱(37.5 ℃以上)がある
2) 全身状態が不良である(るい痩、衰弱が著明)
3) 心、肺、肝、腎等に活動性病変がある
4) 活動性の血管病変がある
5) 関節炎が急性増悪期にある
6) 出血傾向にある
◇温泉のリウマチに対する効果
1) 温熱作用−鎮痛、筋弛緩、血流改善、新陳代謝促進
2) 水の物理作用−鎮痛、抵抗
3) 泉質による作用−血流改善、ホルモン分泌促進、結合織代謝改善
4) 総合刺激作用−自律神経調整、生体リズム正常化
5) 脱ストレス作用−自律神経調整、ホルモン分泌促進、免疫能賦活
◇リウマチに対する温泉の作用機序
1) 温熱作用(鎮痛作用)
温泉療法がリウマチに効果があるとされるのは、温熱により鎮痛効果が確認できるからです。
温熱による鎮痛作用機序は、温浴による血中ヒスタミンの低下、血流改善による炎症産物の排泄、疼痛閾値の上昇などが考えられます。
筋弛緩は温熱作用の特徴の1つであり、疼痛時に認められる反射的な筋痙縮をとり、血流改善にも資するものです。
2) 水の物理作用(水圧、浮力、粘性)
水中では浮力が働き体重は1/9に減じます。
このため下肢にかかる体重は大幅に減少し、免荷時と同様、疼痛が軽減されます。
また水は粘性抵抗により筋力増強の改善に役立ちます。
3) 泉質による作用(末梢循環の改善)
リウマチ患者では、末梢循環が障害されていることが多く、痛みの原因になっています。
硫化水素や二酸化炭素は血管拡張作用があり、疼痛の改善が期待できます。
4) 下垂体副腎皮質性腺系の賦活
関節リウマチ患者ではステロイド剤を服用することもあって、17-KSの尿中排泄量やACTH刺激に対する反応性が低下しています。これらは硫黄泉浴によって副腎皮質ホルモンの分泌が促され、尿17−KS排泄量が増加します。
また軽度ながらノルアドレナリンの分泌も高まります。
内因性オビオイドであるβエンドルフィンの血中濃度はリウマチ患者では低い傾向にありますが、運動浴で上昇することが多いです。
これらのホルモンは、直接的、あるいは免疫系を介して間接的にリウマチの炎症に好影響を及ぼします。
5) 総合的生体調整作用
関節リウマチ患者は、長期の痛みや不安により自律神経失調を示すことが多いです。
温泉は温度、圧力、浸透圧、化学成分などの総合刺激が生体の機能を調整し正常化する作用があり、これにより自律神経失調の異常が是正されます。
関節リウマチ(RA)の温泉療法の目的は以下のとおりです。
1) 疼痛の軽減もしくは除去
2) 動きにくい関節の可動域を拡大する
3) 関節破壊を遅らせ、筋萎縮を防止する
4) 薬物療法による副作用を防止する
5) QOLを改善、向上させる
◇使用温度
夏期39〜40℃、春秋40.5〜41.5℃、冬期42〜42.5℃で少しぬるめの副交感神経が働く温度。
◇入浴時間
15〜20分が目安。砂時計3分計を用い、3分を5回。1日3回。
◇入浴の時間帯
午前10時頃1回、午後2時頃1回、夜就寝前、8時頃の3回とする。
◇宿泊数
7〜10泊は予定を立てること。
◇使用泉質
単純泉や沸かし湯でも泉質は問いませんが、リウマチ患者の血流改善、代謝改善、ホルモン分泌促進等を考慮すると、食塩泉、硫黄泉、硫酸塩泉、炭酸泉、放射能泉がおすすめです。
◇入浴してはならない時間帯
早朝入浴と夜遅くは交感神経が働くため不可。高温浴も同様に不可。
◇運動浴の場合は夏期36〜38℃、冬期39〜40℃が適当です。
運動入浴時間は全身状態に応じて20〜60分間。
とくに膝関節炎などで痛みが強いときは、温泉を利用した運動浴は非常に有効です。
◇注意
リウマチは低湿、高温、高気圧には適し、高湿、低温、低気圧には不適です。
温泉地を選ぶ場合は標高の低い温泉地が向いています。
関節リウマチ(RA)の温泉療法の臨床データはヨーロッパの文献が非常に多いですが、我が国でも古くからリウマチの温泉療法が行われてきていますので、本邦の代表的なものを紹介します。
◇群馬大学医学部
現在は廃院となった草津温泉分院のデータですが、
「リウマチ患者のうち、温泉療法を受けた30例中25例に症状の改善が認められ、ステロイド減量についての調査では、ステロイド使用中の患者10例のうち離脱に成功したのは6割で、減量可能は2例であった」
と報告しています。
◇岡山大学医学部
森永寛 名誉教授、三朝温泉分室のデータでは
「副腎皮質ステロイド剤を中止し得たものが54%、減量し得たものが23%であった」
と報告しています。
またアンケート調査では
「関節が動かしやすくなり、鎮痛効果が著明であった」
としています。
◇当館
当館でも約85%の改善がみられます。
疼痛の軽減、関節可動域の拡大がみられ、とくに膝関節炎で痛みが強いときには、運動浴を加えた温泉療法は非常に有効です。
リウマチに対する温泉地療法の効果は対症的であり、決して根治療法ではありません。
しかし最新の薬物療法とて同様であり、その故をもって温泉地療法を無意味とすることはできません。
むしろ
薬物療法を補う意味で、また体調を整える意味で、定期的にこのような統合医療を行うことは、リウマチの急激な進行を防ぎ、各種合併症を予防する上で大変重要なものです。
現時点でもリウマチの温泉地療法は、リウマチの治療上甚だ重要な位置を占めているものです。
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